更新日:2017年03月17日

焼入れ

焼入れは熱処理の一種で、高温に熱した鋼を水又は油中で急冷することを指す。
  は炭素を含んだ鉄であるが、その組織は高温になるとオーステナイトと呼ばれる、面心立方状の組織に変態し、これを急冷するとマルテンサイトと呼ばれる笹の葉状の組織となる。マルテンサイト組織の鋼は非常に硬く、かつもろくなるので、焼入れは刃物など高硬度の鋼を得るために行われる代表的な熱処理である。
  鋼の場合、マルテンサイト組織のままでは実用上もろすぎるため、再度200度~600度程度に加熱し、焼戻しを行う。これによりマルテンサイト組織は粘りを持つソルバイト組織に変態する。従って通常焼入れと焼戻しはセットで行われる。
  鋼の表面のみを焼入れし硬化させる方法として高周波焼入れ(induction hardening)がある。これは、鋼材の表面に沿って置いたコイルに高周波電流を流して鋼材表面に誘導電流を発生させ、この抵抗熱で表面付近を急速に熱して選択的に焼入れする方法である。
  高周波焼入れではより表面硬さが高くできる上、残留圧縮応力が生じて疲労強度が増すといった長所がある。
  浸炭焼入れ(carburizing and quenching)もまた鋼の表面硬化法の一種である。低炭素鋼を浸炭剤中で900度以上に加熱すると、炭素が拡散して鋼表面層の炭素含有量が多くなる。これを焼入れすると浸炭層が硬化して耐摩耗性に優れた表面となる。このとき、鋼内部は低炭素鋼のままであるから、靭性に富み、かつ硬度の高い製品が得られる。
  このため浸炭焼入れはシャフトや歯車といった小物の機械部品や自動車部品から、大型の部品まで広く応用されている。
  これら焼入れは高温での熱処理であるため、大気中の酸素と鉄が反応して酸化し、表面に酸化膜を生成する。これを嫌って各種不活性ガス中で焼入れを行うのが雰囲気焼入れである。

焼入れ

適している分野・使用事例

焼入れ

刃物、工具など硬度を求める製品(合金工具鋼、ハイス)。

高周波焼入れ

大型の製品への焼入れ。

浸炭焼入れ

機械部品、自動車部品。

用語解説

炭素含有量が0.03〜1.7%の鉄-炭素系合金。性質を改善するためニッケルやマンガンなどを含む鋼は特殊鋼という。

変態

温度を上昇または下降させた場合などに、ある結晶構造から他の結晶構造に変化する現象。磁気変態のように必ずしも結晶構造の変化を伴わないものもある。

疲労強度

疲れ強さ。金属は繰り返し荷重により生じる応力が降伏点よりかなり小さい場合でも疲労によって破壊することがしばしばある。

靭性

じん性。粘り強さ。衝撃破壊を起こしにくいかどうかの程度。